トリオでシリアス後編!長い!しかもちょっぴりバイオレンス!
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圧倒的な実力差がある相手を前にして、退路が絶たれ立ち向かう以外の方法が無い場合。
その実力差をカバーするのは作戦と手かず。
サニの出した課題は、
エージ、オレイン、犬丸そして疾風の三人と一匹のチームワークを駆して、サニに一撃与えること。
その間サニは避けもするし反撃する。ハンデとして両手を使わないと付け足したが、三人には少し高く感じるハードルだった。
「…できんの…?そんな事」
「サニさんいじめじゃない、アレ」
にこにこと髪の毛を束ねて準備するサニを横目に三人はうずくまり作戦を考える。
相手は教官で、自分たちより戦場キャリアを積んだ、元とはいえ陸軍の中隊隊長を勤めた女。
女と形容するのも気が引けるほどの腕力と、種族にしては冗談のようなスピード。
専攻分野が情報、諜報であるのも加えれて状況判断や頭の回転も恐ろしく速い。
弱点を挙げるなら自分たちに本気は出さない、出せない位のものだろうか。
「倒す、とかじゃないんだから何とかなるんじゃないかな?作戦を練って、ほら」
「俺、兵法とか嫌い…」
「俺も苦手…」
教室の隅で簡易勉強会をするときの光景を目の前に犬丸は優しく笑う。
何度と無く見ているその光景は戦争も血なまぐささも感じさせない、自分たちだけにある確かな平和だと思う。
それが無意識の思想であろうとも。
しゃがみこむ三人の上から夕方の薄暗がりを遮ってひときわ大きな影が降ってくる。
犬丸の背中に疾風がのしっと体重をかけた。
自分を仲間はずれにするなといわんばかりだ。
「あ、そうだ」
「お。なに丸せんせ、何か思いついた?」
地面に図を書きながら作戦の展開を説明する
数はこちらが圧倒的に有利、立てようと思えば幾らでも作戦は思いつく
説明にうなずく二人の顔が希望を得て輝いてゆく。
「愛してるよ丸さん、結婚して」
「え、遠慮しとく」
「じゃあ俺は愛人で」
「……ねえ、二人とも晩御飯までには帰りたいんだよね……?」
勿論と重ねて返事をするも冗談ばかり言う二人に苦笑しながら立ち上がる。
立ち向かうしか道は用意されていないのだから。
「では、確認をします。チャンスは一回、私に一撃を与えること。
どんな手を使っても構いません。ただし、兆弾の恐れがある銃器は無しです。良いですね?」
「分かってます」
「おけー」
「了かーい」
「両手は使いませんが、まだまだあなたたちに遅れをとるつもりはありません。
全力で来なければ今日の晩御飯は抜きですからそのつもりで頑張ってくださいね」
にこりと微笑むサニの顔に薄ら寒いものを三人は感じた。
柔らかそうに見えて意外と頑固な母親は一度決めたことを頑として曲げない。
くたくたに走り回って、その上ちょっとした白兵訓練にも近い補習の補習。
こんなに動いた後で育ち盛りが晩飯抜き。
現役の軍人だって三食配膳されるご時世でその罰はきつい。
「…え、僕も ですか?」
サニの笑顔が犬丸に追い討ちをかける。
とんだとばっちりなのでは、と目を背けて協力することに了承した自分を少し恨んだ。
「よし絶対無理だけどやってやろうじゃねえか」
「なんだその前向きなネガティブ」
「二人ともちゃんとしてね」
声色を落とした犬丸の言葉を聴いて、二人は目を細める。
晩飯抜きなど流行らない熱血なんて冗談ではない。
犬丸が疾風の前足を軽く撫でるように叩く。
ぐるると呻き声を上げて疾風の鬣が逆立っていった。
その動作を続けて、何回目かに叩く手を強く押し上げる。
動作を合図に陸上では最速と謳われることもあるウインディが突進してくる。
確かに。三人のスピードならギリギリ経験で追いつけるが、さすがに彼にはかなわない。
初激は合格。兄弟の長男は良く考えている。
一歩さがり、強く地面を蹴る。
追加で高速移動されれば地上で疾風から逃げることは不可能になる。
黒いマントをたなびかせながら身を翻した。
「計算通り」
誰の真似なのか、やけに真剣な顔でその台詞を吐いたのは、
疾風の後ろにしがみ付き機をうかがっていたエージだった。
逃げ先が空中ならば、一瞬身動きができなくなる。
その一瞬の隙をうかがって繰り出した催眠術をサニはまともに食らった。
(睡眠促進系統の技は、選択として悪くは無いですね…捕虜にも出来ますし……)
フラつく頭で考えながら眠気が引くのを待つ。
種族柄、睡眠作用の系統にある技や薬にはかかりやすく、
その対策にサニはいつもカゴの実の能力を宿すネックレスをしている。
三人も知っていることだ。
だからこの行動は隙を更に作り上げる事。
身を安定させつつ着地する前に、数段階高速移動を積んだオレインの顔が目の前にあった。
そう貴方の速さは三人の中で一番ですものね。
でも
勝てる、そう思ったときの油断が一番 危ないのを何度教えました ?
地に足をつけるより早く無理やりに体重を空中で移動させて地面に手を付く
反動で逆立ちの状態になり、
そのままの速度で前進してくるオレインの顔―――は、さすがに可哀相と思い胸付近を狙い蹴り上げる。
「いっ」
「うわぁ…」
思わず一瞬目を背け痛みを想像する二人から自然とオレインを哀れむ声が聞こえた。
当のオレインは呻き声少し上げただけでその場にうずくまっていた。
実は、そんなに痛い攻撃でもなかったのだ。
確かに止められない速度分の痛みはあっただろうが蹴りの衝撃自体はサニが手加減をした為、
通常なら呼吸器系を破壊しても可笑しくないサニの攻撃は肺は愚か骨にも一切のダメージを与えていない。
今日の晩少し腫れる位だろうか、明日には痛みも無いだろう。
やっぱり彼等には甘くなる、こんなことでは駄目なのに。
自分を叱咤して地に付けた手を放し足を元に戻した。
そう、こんなことでは駄目だ。
「失敗、ですね」
微笑んで三人に目線を流す。
その表情には悲壮感が漂う、晩飯 抜き。
「犬丸さん、全員の個性を考慮した良い作戦でした。
エージさん攻撃が正確で早くなりましたね。
オレインさん、そろそろスピードでは敵わなくなってしまいますね。
三人ともお疲れ様です。ご飯は食べても良いですよ」
「おぉ!マジでサニちゃん!」
「あ、生きてた」
「平気だったんだ、あれ」
倒れたまま動かなかったオレインがその言葉にむくりと体をおこす。
地面に胡坐をかき座る彼を見てゆっくりサニは彼に歩み寄る。
「ですが」
とんっと軽くオレインの胸に靴底を当てる。
「ここが戦場で、私が本気なら あなたは死んでいますよ。オレイン=ハーバーグス」
酷く低い、冷たい言葉だった。
精一杯感情を閉じた目から刺さるような視線がオレインを貫いた後、
それを見ていたエージと犬丸にも向けられる。
「仮に、私が貴方を生かして捕らえたとしましょう。
エージ:ウェイトローマン、疾風を殺さなければオレインの肺を潰します。」
ぐっと足に力をかける。
ぎょっとした犬丸の横でエージが息を詰まらせていた。
もしここが戦場ならば、捕虜を立てに部隊を潰す。それは十分想定できる事態だ。
サニの目からは何も感じられなく、ただ冷たい。
「一人の失敗が全てを招くわけではありません。
カバーに入れないのも、それを補えない知識不足も問題です。」
一息ついて、漸くいつもの表情に戻る。
足を退けてオレインの前に屈み、彼の服に付いた土ぼこりを払う。
いつもの ―――そう形容するには何処か淋しげにも見えた笑顔は優しいのか哀しいのか。
「貴方たちの生きる道はこれから幾らでもあるでしょう。
軍人を選ばなければ平和に、縛られずに、戦わずに、生きることも
生涯戦争とは無縁の生活を送ることも可能でしょう。
でも、今 貴方たちは選抜クラスの軍学生です。
戦場に出れば学生と言って敵が手を緩めてくれる通りは通用しません。重々承知ですね」
サニは髪を解き服のポケットから打撲用の軟膏を取り出し容器ごとオレインの手の中に入れる。
手当てはちゃんとするんですよ、すみません。痛かったでしょう。
頭を撫でるその行為は小等部の幼い頃から何度もされている。
安心はするがこの歳にまでなると何処か気恥ずかしい。
「戦場に出れば、どうしても倒さなくてはいけないものが出来るかもしれません。
どうしても護り通したいものが出来るかもしれません。
その時に、自分の非力に涙しないように、自分の信念を貫き通すために
――強くなりなさい」
立ち上がり微笑む顔は、夕方の逆光でよく見えない。
目の当たりにした強さを酷く弱く感じたのは錯覚だ、そう思った。
「さぁ、ご飯に遅れてしまいますよ」
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何も言うまい。
いや、ごめんなさい。埋まってくる。埋めてくれ。
自分の非力に涙しないように、これが言いたかった@武.装.錬.金
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