ラッタルを降りるたびに革靴が鉄板をたたく音が響く。
一人の部下に生徒の様子を見るように言いつけ、もう一人にはいい加減に仮眠を取るように言い渡す。
暗灰色で統一された艦内をすべる様に音もなく進んで、あてがわれた部屋に一人、ようやく腰を下ろした。
部下殺しの黒壁
一息ついたところで反復する耳障りを目を閉じて受け入れる。
すべて事実であり罪の形はあり続ける。
逃げることも忘れることも自分には赦されないのだと感じながら、先遣隊から送
られた資料に目を通す。
敵の大隊長は ―――よく知った相手。
初めてあった時にはどちらもほんの子供だった。
ヴェンツェルフ=マイヤー、柊華氷の名前を指でなぞった。
続いて目にしたデイモス・アスターの綴りを見て、記憶のそこから個人資料を思い出した。
あの日、彼はまだ十にも満たない幼子だったのだな、と考えて開きかけた蓋を強引に閉じる。
感傷に浸っている暇も罪にさいなまれ懺悔する余裕もない。あってはならない。
今、何よりも考えるべきは戦場を駆け命を張る大切な生徒、大切な部下たちのこと。
安全圏でのうのうと構えて何をしているんだ、司令官と言う立場を忘れるな。
唇の傷を吸いなおし、鉄の味をかみ締めてインカムのスイッチを入れた。
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――― 十六年前
大人が泣くのはね、夜中皆が寝静まってからって決まっているのよ
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トリオでシリアス後編!長い!しかもちょっぴりバイオレンス!
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圧倒的な実力差がある相手を前にして、退路が絶たれ立ち向かう以外の方法が無い場合。
その実力差をカバーするのは作戦と手かず。
サニの出した課題は、
エージ、オレイン、犬丸そして疾風の三人と一匹のチームワークを駆して、サニに一撃与えること。
その間サニは避けもするし反撃する。ハンデとして両手を使わないと付け足したが、三人には少し高く感じるハードルだった。
「…できんの…?そんな事」
「サニさんいじめじゃない、アレ」
にこにこと髪の毛を束ねて準備するサニを横目に三人はうずくまり作戦を考える。
相手は教官で、自分たちより戦場キャリアを積んだ、元とはいえ陸軍の中隊隊長を勤めた女。
女と形容するのも気が引けるほどの腕力と、種族にしては冗談のようなスピード。
専攻分野が情報、諜報であるのも加えれて状況判断や頭の回転も恐ろしく速い。
弱点を挙げるなら自分たちに本気は出さない、出せない位のものだろうか。
「倒す、とかじゃないんだから何とかなるんじゃないかな?作戦を練って、ほら」
「俺、兵法とか嫌い…」
「俺も苦手…」
教室の隅で簡易勉強会をするときの光景を目の前に犬丸は優しく笑う。
何度と無く見ているその光景は戦争も血なまぐささも感じさせない、自分たちだけにある確かな平和だと思う。
それが無意識の思想であろうとも。
しゃがみこむ三人の上から夕方の薄暗がりを遮ってひときわ大きな影が降ってくる。
犬丸の背中に疾風がのしっと体重をかけた。
自分を仲間はずれにするなといわんばかりだ。
「あ、そうだ」
「お。なに丸せんせ、何か思いついた?」
地面に図を書きながら作戦の展開を説明する
数はこちらが圧倒的に有利、立てようと思えば幾らでも作戦は思いつく
説明にうなずく二人の顔が希望を得て輝いてゆく。
「愛してるよ丸さん、結婚して」
「え、遠慮しとく」
「じゃあ俺は愛人で」
「……ねえ、二人とも晩御飯までには帰りたいんだよね……?」
勿論と重ねて返事をするも冗談ばかり言う二人に苦笑しながら立ち上がる。
立ち向かうしか道は用意されていないのだから。
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トリオとお名前だけアリスちゃんを借りてます。トリオレンタル率が以上です。
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五月下旬、四季巡るメアレイヒでは梅雨時を控え暑さと涼しさが安定しない時期だ。
北部も例外ではなく梅雨を忘れ夏を一足飛びで迎えてしまったのではないかと言う暑さが、ここデーゲンレヒト軍学校でも猛威を奮っていた。
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